昭和の化石の英語教室

昭和の終わりに日本を離れたラッキーな老人の英語教室

英語学習者の陥りやすい三つの「罠」

私の経験上、英語学習者、特に初級者の陥りやすい「罠」が三つほどあります。私自身が陥って、後で這い上がるのに苦労したので、お伝えいたします。

1)ネイティブの発音をずっと聞き続ければ、「自然に」発音がよくなる。

そうなりません。簡単な発音(例えば、"dog" など)は、聞くことによって、段々とネイティブに近くなります。しかし、間違った発音は、ネイティブの発音を聞くだけでは、絶対に消えません。頭が「間違っている」こと自体を認識していないからです。

子供ならすぐにネイティブの発音を吸収する、と思っている親御さんいます。でも、それは英語圏に生活している場合です。日本でもそうなるんでしょうか。日本では、日本語:英語インプットの比において、日本語が圧倒的に多いです。これはどうしようもありません。

2)英単語の量は「そのうち」増えるので、心配いらない。

一旦覚えた単語を永久に忘れないのであれば、単語量は増えていくでしょう。でも、実際には忘れていくので、常に新しい単語をどんどん補給しないと、「覚える量」と「忘れる量」がかなり低いところで、平衡状態になります(10個覚えて、10個忘れる状態、笑)。下のサイトで語彙のサイズを測れます。

Test your English vocabulary size

TOEFL/TOEIC で良い点を取るには、最低でも5,000くらいの単語量が必要となります。私の場合、約20−25,000で、これは教育されたネイティブの単語量の約半分です。私はアメリカで働いていたし、40年近く毎日毎日、英語を読み続けてきましたが、それでもせいぜいこんなもんです。

3)喋るのに、文法は気にしなくて良い。

これは大間違いではありませんが、誤解されています。会話に文法は「完璧で」ある必要はありません。しかし、基本的な文法は守って喋らないと、それこそ「話」になりません("I yesterday Japan go"???)。ネイティブであれば、一人残らず、基本的な文法は間違えません。間違えると変に聞こえるので、「直感」的にわかるからです。

私たち非ネイティブには、その「直感」がないので、どうしても「ルール」(文法)を勉強する必要があります。どうしようもありません(泣)。でも、「完璧」である必要はありません。

 

「ネイティブが毎日使っている言い方」は使わない方がいい?

英語の挨拶で、"How are you? I'm fine, thank you, and you?" は教科書を読んでいるみたいで「格好悪い」と思われている人はたくさんいます。しかし私たちが英語を勉強する目的は、会話をするためであって、「格好」をつけるためではないと言うことを、忘れないようにしましょう。

「ネイティブがよく使う言い方」の類を紹介しているサイトはたくさん有ります。いくつか見てみました。紹介されている表現は、確かに、少なくともアメリカでは「ネイティブがよく使う言い方」でした。

しかし、これらの言い方は、安易に使わない方がいいと思います。英語のレベルが相当高い方以外は、これらの表現は「どういった状況では使ってはいけない」かを知らないからです(ネイティブはもちろん知っています)。これは言語の問題ではなく、習慣の問題で、習慣を知らないで使うと、まずいことになります。

例えば、あるサイトでは、相手のいっている事に興味がないときには "whatever" とネイティブは言うと書いてありました。しかし、この表現は、例えば親にガミガミ文句を言われている12歳の女の子が、親に向かって投げ放つ「皮肉」"sarcastic" な言い方です。この表現を友達に使ってしまうと、怒らせてしまいます。相手が頭のいい人だったら、あなたは "whatever" の使い方を間違った、と理解してくれると思いますが、それでもちょっと「おっとー」と思うでしょう。

また、あるサイトでは、誰かが訳のわからないことを言っているとき、"Do you even hear yourself?" との言い方があると紹介していました。これは、映画やドラマではよく出てくる表現ですが、非常に気心の通った相手以外には、絶対に言ってはいけません。「頭がおかしいの?」と同じ響きです。

今度「ネイティブが毎日使っている言い方」を紹介している情報を見たら、本当に気をつけてください。覚えておいて欲しいのは、非英語圏に育った私たちは、どんなに英語が上達しても(TOEICが満点の人も)、自信過剰になってはいけません。決してネイティブではないのです。色々な英語の表現が「どう言った状況では使ってはいけないか」という習慣の問題は TOEIC ではテストされません。世代とか状況とかで異なってくるので、「正しい答え」は存在しないからです。

ネイティブの「真似」をするのは、気分がいいのですが、私の経験では、下手をすれば問題を起こします。スラングやネイティブ独特の言い方は、最初のうちは、なるべく避けた方が無難だと思います。外国人の大切なお客様にフレンドリーにするつもりで、うっかりこう言った表現を使ってしまうと、後で大変なことになるかもしれません(笑)。

 

初級英語(14):まず「音節」という概念を理解する

今まで、英語の「音」の話ばかりしてきましたが、そろそろ英語の「音節」の話をしなくてはなりません。これがわからないと、発音練習の次のステップに進めません。

日本語の音のユニットは基本「子音+母音」で構成され、例えば「か」("k"+"a") がそうです。50音の一つ一つが音のユニットです(注)。

(注)日本語の音のユニットはモーラと呼ばれ、音節とは微妙に異なりますが、その違いは今重要ではないので、説明は省略します。興味のある方は、ここ (←) を読んでください。

一方、英語の音のユニットは "syllable"「音節」と呼ばれ、もっと複雑です。英語の単語は一つか、あるいはそれ以上の数の音節で構成されています。例えば、

音節一つの単語:"pan"

音節二つの単語:"Ja.pan" ("." は音節の区切り)

音節は、英語を喋る際の最小のユニットです。英語の音節の数は日本語よりもずっと多く、少なくとも1,000以上はあると言われています。

英語の音節は、一つの母音とゼロ以上の子音で構成されます。ここで「母音・子音」といっているのは、「音」であり「文字」ではありません。例えば "love" /lʌv/ は二つの母音「文字」("o" と "e") が有りますが、"e" は発音されないので、母音の「音」は一つだけ。従って音節も一つとなります。つまり音節の数は、母音の「音」の数、となります。

英語の単語を読む際に、音節を見抜くことは非常に重要です。例えばこの単語: "advertisement" を見てください。音節に分けると、"ad" "ver" "tise" "ment" になります。この四つの音節を順番に発音していくわけです。

"advertisement" (←単語をクリック;アメリカ式の発音)の発音と聞くと、三番目の音節 "tise" が強調されているのがわかると思います。これを、「ストレス」"stress" と呼びます。単語を発音するとき、どの音節にストレスがあるかは大事で、ストレスの位置が変わると、同じ単語でも意味が変わってくることも有ります。

 

「早期英語教育」は役に立つのか。

ご存知かもしれませんが、中国の「教育ママ」は日本の比ではなく、「虎ママ」と呼ばれ恐れられています。うちのカミさん(中国人)は、ここ中国・武漢で子供たち(小・中学生)に1対1で英語を教えていて、「虎ママ」の扱いには比較的慣れています。慣れていないと、咬み殺されます(笑)。

 

中国の「虎ママ」

ここ武漢の学校では、英語は小学校3年生から始めます。ですが、うちの生徒さんの中には、3歳頃から英語を習っている子が結構います。ここ10年程、こういった「早期英語教育」を受けた子供たちをみてきたわけですが、気づいたことが一つあります。

小学校の3−4年までは、この子達の英語の成績は当然いいのですが、小学校高学年から中学生頃になると、3年生から普通に始めた子とそんなに変わらなくなる、ということです。私には、この現象はちょっと不思議でした。そこで「早期英語教育」のメリットについて、私なりに調べてみました。ブログで誰かが書いているようなものでなく、文献を当たってみました(昔取った杵柄です、笑)。

まず分かったことは、英語を母国語としない者、例えば日本人が、英語を習う環境が二つあるということです。一つは、英語圏(例えばアメリカ国内)で「第二言語」として習う環境(いわゆる ESL, English as Second Language)、もう一つは、非英語圏(例えば日本国内)で「外国語」として英語をならう環境です(EFL, English as Foreign Language)。

大妻女子大学英語教育研究所の服部孝彦教授は、「第二言語環境」と「外国語環境」の違いについて、次のように述べられています。

第二言語環境においては,早期英語教育の効果は期待できるが,外国語環境では,早期英語教育が効果的であるという研究結果は得られていない。外国語環境では,インプットの量があまりにも少なすぎるので,音声面でさえも早期英語教育の効果はほとんどないと考えられる。日本という外国語環境での早期英語教育の技能面での効果は,残念ながらあまり期待できないといえる。

(参考文献:早期英語教育と臨界期に関する研究

服部教授のおっしゃることは、私たちが見てきたことと合致しています。幼稚園から英語をならってきた子は、確かに英語に慣れていますが、親御さんが思っているほどには慣れていません。ネイティブの同じ年頃の子供たちとは、格段に違います。まず、まともな文章がほとんど喋れません。小学生になっても、ほぼ単語の羅列です。最初のうちはこれでも問題ではないんですが、高学年になると、問題になってきます。

「早期英語教育」を宣伝しているところはたくさん有りますが、本当に役に立つのでしょうか。私は専門家ではないので、わかりません。しかし、「絶対に役に立つ」との証拠はどうもまだないようです。

 

"Accurate English: A Complete Course in Pronunciation" by Rebecca M. Dauer

英語の発音に関して、私が「バイブル」としているのがこの本です。著者は有名な言語学者です。私が発音のトレーニングを受けたのもこの本だし、私のブログもこの本に書いてあることを基にして書いています。

古い(1992年)本なんですが、いまだにアマゾンなどで売っています。デジタル版をダウンロードできるサイトも有ります(お探しください)。この本の序文にこう書いてあります(拙い和訳と[説明]は私がつけました)。

Simple imitation is not sufficient for many adults to overcome the speech patterns of their native language. A student's cognitive abilities also need to be involved. Through understanding the sound system of English and developing self-awareness, students are given the means to improve their accent. 

単なるモノマネだけでは、成人[の英語学習者]が、自分たちの母国語の話し方を乗り越えることはできない。学習者の認知能力も関わる必要がある。英語の音の体系を理解し、[発音の]自覚を養うことを通して、学習者はアクセントを改善する手段を与えられる。

単に有名な言語学者がおっしゃっているからだけではなく、私自身の経験からも、上に書いていることは全く正しいと思います。

英語の発音練習は、昔から、ネイティブの発音を聞いて「マネ」をするというのが主流です。皆さんの多くがそうしていると思います。私も、そうした方法をとっていました。でも、少なくとも私の場合、この「聞いて真似する」方法では、ほとんど上達しませんでした。

Dauer博士は、「頭」を使って、英語の「音」を理解することが重要だといいます。その通りだと思います。ぜひ、この本を読んでみてください。

 

「英語ネイティブのように話す」という目標について。

私の個人的見解では、「ネイティブのように」英語を話すことを目標にすると、英語の上達がかえって遅れてしまうと思います。

私も以前はそうだったんですが、英語学習者は大抵「ネイティブのように」会話できたらいいなと思っています。実は、そこに「わな」が有ります。「ネイティブのように喋りたい」という欲求が強すぎると、基本の発音練習とか文法学習をすっ飛ばして、いきなり「ネイティブの自然な言い方」とか「ネイティブの先生との楽しい会話」の類に飛びついてしまいます。これが、のちになって英語の上達を妨げてしまいます。

例えば、「ネイティブの先生との楽しい会話」を考えてみましょう。どうなるかというと、そのネイティブの先生が、あなたの発音に慣れてきます。そのスピードは、あなたの発音の上達スピードより何倍も早いので、やがてあなたの英語が先生に「通じる」ようになります。通じてしまうので、あなたの発音の癖はあまり治りません。癖の「化石化」が起きてしまいます。一旦「化石」になってしまった癖は、なかなか治りません。あなたの英語は、先生以外にはあまり通じない、となってしまいます。

また、そこら中で「ネイティブの自然な言い方」はああだこうだ、みたいな話を見かけます。嘘ではないと思いますが、それを一生懸命習う意味はあまりないと思います。というのは、あなたの基本的な発音・文法がちゃんとしていない限り、どういう言い方をしようが、あなたの英語が「自然に」聞こえることはありえないからです。そういう時間があるくらいなら、基本的な発音練習・文法学習をしたほうが、「伸びしろ」(上達の余地)が増えると思います。

正直に申し上げて、「ネイティブの自然な言い方」などと教えているネイティブ(ユーチューブにたくさんいる)のほとんどは、どうみても英語の「先生」ではありません。そういった方々に教わると、少しは英語が上達するとは思いますし、何より外国人と会話する度胸がつくでしょう。でもそれ以外には、おそらく時間の浪費だと思います。

大抵の日本人は、英語の発音の基礎ができていないので、それを教えてくれる先生を見つけられたら、日本人であれネイティブであれ、それが一番有益だと思います。

 

 

初級英語(13):"girl" の発音をマスターする

"girl" の発音 (←単語をクリック) は、日本人英語学習者の最初の難関になるかもしれません。この単語にある四つの音素のうち、三つまでが日本語にありません。従って、「モノマネ」の天才でない限り、「耳」で聴いて真似できる人はほとんどいないと思います。少なくとも私はできませんでした。

上の図に示す2、3、4の音は、日本人の「口」は知らない音です。と同時に、2→3及び3→4の舌の動きも、あなたの「口」は知りません。従って、(1)「知らない音」を覚え、(2)「知らない舌の動き」を練習して、初めて "girl" を発音できるようになります。

こういうと難しく聞こえますが、実は、2−3日で誰でもできます。次の三段階で挑戦してみてください。

  • ステップ1:出だしの /ɡə/ の練習。

ため息をついて、「はあ」と言ってください。この時の「あ」は、おそらく口が半開きになって、いい加減な「あ」になっているはずです。これが /ə/ 「シュワ」の母音です。簡単にできます。これを使って、/ɡə/ と始めます。日本語の「が」(明確な「あ」)にならないように気をつけて。

  • ステップ2:/ɡər/ と伸ばす。

/ər/ と書かずに、変な記号 /ɝ(ː)/ を使っている辞書もあります。本質的に同じものです。/R/ をくっつけるわけですが、この音は難関です。「巻き舌」はやめた方がいいです。下の図を参考にして、練習してください。もし一回でもいい音が出たら、忘れないうちに、何回も出して、「口」に覚えさせてください。

この「R」の音を、素早く /ɡə/ にくっつけるには、舌が後ろにパッと引っ込まないといけません。私の「ベロ」は動きが鈍く、初めはこの動きにちょっと苦労しました(/ɡə/ と「R」の間に隙間が開く、笑)。まあ、練習しかありません。

  • ステップ3:「暗いL」をくっつけて、/ɡərl/ の完成。

最終ステップは、/ɡər/ に「暗いL」をくっつけるだけです。舌は前に動くんですが、ステップ2と違い、時間は十分にあります。

「暗いL」の関しては、以前述べましたが、ネイティブによっても発音の仕方が違うようです。グーグルで "dark L" と検索されるといいと思います。私自身の教わったやり方は、舌を普通の「L」の位置(上歯茎の裏にタッチ)にして、日本語の「う」を言うとのやり方です。完璧ではないようですが、私のような日本人には、この方法が簡単だそうです。あと、「音色」はなんとか調整できます。

 

一旦、"girl" が発音できるようになると、同じ要領で、"curl" /kərl/, "pearl" /pərl/, "world" /wərld/ なども発音できます。これらの単語は、出だしと終わり(worl+d)以外は、"girl" /gərl/ と全く同じ発音になります。